偶然と必然の方程式

多くの分野において、経験のある人が自分を専門家だと考えているが、両者には違いがあり、専門家のモデルは予測に使えるが、経験のある人のモデルは予測に使えるとは限らない。

多くの企業経営者、他社の成功例を参考にして業績を向上しようとする。だから、成功事例を紹介する本が数多く出版されているのだ。残念ながら、成功事例に学ぶという手法には本質的に問題がある。成功した会社の多くは運が良かっただけで、その成功から信頼に足る教訓を学べることが少ないのだ。 

人の心は、身の回りの世界を説明する物語を作り出す能力を備えている。この能力は、あらかじめ答えを知っているときに特によく働く。なぜなら、人間は物語が大好きなうえに、原因と結果を結びつけることが得意だからだ。そのため、過去の出来事が不可避だったと思い込み、ほかのことが起きていたかもしれないという可能性を過小評価するのである。 

ギャディスによると、未来は実力と運が独立して共存している領域だ。様々な出来事が起きるかもしれないが、実際にはそのうちの一つしか起きない。その様々な可能性はじょうごを通って現在に降りてきて、そこで実力と運が融合して起きることがすべて決まる。様々な可能性が一つの出来事に絞り込まれることこそ、歴史が作られる過程なのだ。

我々は小さすぎるサンプルから結論を引き出そうとする誤りを犯す。ある出来事につながった可能性のある要因をくまなく検討することを怠っている。逆に、調べすぎることによって誤りを犯すこともある。調べすぎて、偶然の結果に過ぎないところに原因を見出そうとする。あるいは、目覚ましい成功が卓越した個人の実力によるものだと思い込み、その個人が属している組織が及ぼす影響を軽視しがちだ。

芸術の革新者には二つのタイプがあり、それぞれが異なる時期にピークを迎える。”概念の革新者”タイプは、他の芸術家と異なる斬新な作品を生み出す。政策を始める前に周到な準備をするものの、過去にはあまりとらわれず、「特定の考えや感情を伝えたいという欲求」を優先する。典型例はパブロ・ピカソだと、ゲイリンソンは指摘する。ピカソの生産性のピークは26歳のときに訪れ、その時期の作品が最も評価が高い。

一方、”実験的革新者”タイプは多くの研究を行い、知識を蓄え、ゆっくりとした漸進的な進展を測る。自分の最後の作品に満足せず、いつも改良の余地があると考えている。ゲイリンソンによれば、典型的な”実験的革新者”はポール・セザンヌだ。セザンヌは「こんなに長い間努力を重ねてきたというのに、完成するのはいつになるのだろうか?」と問いかけているという。セザンヌの生産性のピークは67歳の時に訪れた。ピカソと同様、セザンヌの晩年の絵画は全作品の中で最も評価が高い。

斬新な創造が生まれるのは若手で、熟練の技術が花開くのは壮年というのは、流動性知能と結晶性知能のパターンとよく一致している。

流動性知能は一度も見たことがない問題を解く能力で、学んだことに依存しない。結晶性知能は学習によって蓄えられた知識を用いる能力だ。

人間の実力は年齢とともに低下するが、組織も同じだ。優れたスポーツチームは、並外れた能力をもつ選手の集合体である。たとえ、成功が長続きしたとしても、選手が歳をとるにつれて、チームの実力も低下していく。そのため、チームの運営者は効率よく選手を入れ替えなければいけない。ベテラン選手を若い選手と入れ替えるのは、簡単なことではない。ベテラン選手は成績に見合った報酬を得ていることが多いので、価値を判断しやすいが、若い選手は評価するのが難しい。つまり、スポーツチームの運営者はよくわかっている選手をよくわからない選手と交換しなければならないのだ。 

次に起こることがその前に起きたことに依存することを「経路依存過程」と呼ぶ。記憶する過程と言い換えてもい。経路依存過程では、初期条件のわずかな違いが最終結果に重大な影響を与える。例えば、金持ちはより金持ちに、貧乏人はより貧乏になるといった現象をもたらす。

役に立つ統計とは、時間の経過に対して、持続性があり、予測可能性が高い。 

我々のチームは信頼性の高いデータの収集こそが、迷信と科学を、期待と現実を区別するものだということを、経験から学んできた。質を改善することが科学であり、科学の実験は正確なデータを必要とする。正確なデータは、質の高いフィードバックの基礎となるのだ。

人間は、時間をかけて自分の誤りを検証することを避けようとする。しかし、誤りを検証すれば、その誤りを防ぐためのチェックリストを作れるはずだ。チェックリストを採用することは、謙虚になり、自分が誤りを犯しやすいことを認めることだ。

成功が確率的であるときはプロセスを重視する。

勝ち目があるならゲームを単純にせよ。勝ち目がないならゲームを複雑にせよ。

非対称の戦いで敗れた国の80%近くが、同じ戦略に固執していた。一旦、ある戦略のために莫大な予算が投じられると、別の戦略に切り替えるのが難しくなるのだろう。また、指導者の考え方や組織の慣習が、新しい戦略を採用するうえでの妨げとなるのかもしれない。この種の硬直状態が生じるために、最高の勝率をもたらす戦略を追求できないのだ。

運を変える方法はないのだから、自分が相手より強いか弱いかという状況に応じて、実力の重要性を増減させるしかない。

 

 

偶然と必然の方程式 仕事に役立つデータサイエンス入門

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