Airbnb Story

チェスキーはほかの起業家にずっとこの作戦を勧めている。「ローンチしてだれも気付いてくれなかったら、何度でもローンチすればいい。ローンチして、誰も気付いてくれなかったら、何度でもローンチすればいい。ローンチしたら、そのたびに記事にしてくれるから」

この経験からチェスキーが学んだのは、コンセンサスで決定するなということだ。「危機のときコンセンサスで決めると、中途半端な決定になる。それはたいてい最悪の決断だ。危機のときには、右か左かに決めるべきなんだ」

考え方をひとつ上のレベルに持っていくことを、「ゼロをひとつ加える」と呼ぶようになった。

「20年前の旅行者の望みは、清潔で驚きのない部屋だった」マリオット・インターナショナルのアーネ・ソレンセンCEOは、2016年初めにカンファレンスの壇上でそう語った。・・・(中略)・・・今の旅行者が求めるものは違う、とソレンセンは言う。「エジプトのカイロで目覚めたら、カイロにいる実感がほしい。アメリカの田舎と同じ部屋で目覚めたくないからね」

多くの旅行者は、特にミレニアル世代は、旅行体験に不完全な本物らしさを求めている。・・・(中略)・・・どんな形であれ、その体験はいつもと違っていて、本物で、独特ななにかだ。それが、没個性的になっていた旅行に、行き過ぎるほどの個性を与えてくれた。

ホテル業界はエアビーアンドビーの原動力となったユーザー層を取り込むため、自分たちを「金太郎あめではない」存在として売り込もうとしている。最新のロイヤル・カリビアンの広告コピーは、「ガイドブックにない旅」だし、シャングリラホテルは消費者に「退屈を忘れよう」と呼びかける。

学んだことを共有しなければ気が済まないのもチェスキーの特徴だ。バフェットと会ったあとに4000字のメールをスタッフに宛てて書くようなことも珍しくない。2015年以来、ほぼ毎週日曜の夜にチェスキーは全社員に向けて、自分が学んだこと、今考えていること、伝えたい原則などを書き送っている。「大企業の経営者は講演や著述に優れていなければならない。それが経営ツールになるからね。起業したての頃は4任で台所に集まる程度だったけど、今はそうじゃない」。チェスキーが初めのころに社員に出した3連の覚書のひとつは、「学び」についてだった。

「社員がみんな疲れ切って、しばらく家族にも会えなくて、休みが必要な時に、もう一段上のレベルで働いてもらうにはどうしたらいい?『疲れているのはわかるけど、あと10倍がんばって』っていうわけ?」

その答えをくれたのは、「情報源」のひとり、セールスフォース・ドットコムのマーク・ベニオフだった。もっとがんばれとは言えないが「考え方をアップレベルしてほしい」と頼むことができる。(「アップレベル」はチェスキー語で一段階上げるという意味だ。「スキップレベル」とは、社内のいろいろな階層のさまざまな人と話すこと。「ステップチェンジ」は反復的なアプローチではなく新しい思考法のことだ)

「80パーセントでいい」という言葉だ。「それまでの僕は、80パーセントじゃ落ち着いていられなかった」とゲビアは言う。そのうち、会議のときやだれかと顔を合わせると、ゲビアはこう聴くようになっていった。「わるい知らせは何かな?」

それは、「象、死んだ魚、嘔吐」という、難しい会話を促すためのツールだ。「象」とは、口に出さないけれど全員が知っている真実。「死んだ魚」とは、早くゴメンナサイをしたほうがいい悩みの種のことで、これを放っておくとますます事が悪化する。「嘔吐」とは、人々が断罪されずに、思い切り胸のつかえを吐き出してしまうことだ。

「継続企業はみんなそうでなくちゃならない。テクノロジー企業なら、最初の発明をずっと先まで売り続けられるわけはないから」

エアビーアンドビーにとっての次のプロダクトとは、宿泊以外の旅行のすべてだった。